カフェやレストランなど飲食店の営業を始めるにあたっては、食品衛生法で定められた営業許可が必要です。店舗を出す場所を管轄する保健所に必要書類(申請書や図面)を提出し、営業許可申請を行います。 こちらの記事では、飲食店営業許可申請の手続きの流れや許可の要件、営業開始後の必要な届出などを解説いたします。
飲食店営業許可申請の流れ
飲食店営業許可申請の流れは大まかに以下のようになります。
事前相談
新たに内装工事をする場合は、工事着工前に営業所を管轄する保健所に事前に相談します。その際には、施設の内装図面(案)等を持参しましょう。不足の設備等があれば担当者から指導を受けられるため、許可が取れるように内装を変更するなど事前に準備することができます。工事が完了してから設備を変更することになっては、時間や労力、お金などが余分にかかります。判断に迷う部分があれば写真に撮り図面と一緒に担当者に確認してもらうなど、確実な許可取得のために事前相談を上手く活用しましょう。
申請書類の準備・提出
申請に必要な書類は以下の通りです。個人申請の場合と法人申請の場合で必要書類は若干異なります。
申請書は、個人申請も法人申請も申請様式は共通です。申請様式は、管轄の保健所の窓口で交付してもらうこともできますし、ホームページからダウンロードすることもできます。
水道水、専用水道、簡易専用水道以外の水を使用する場合、水質検査が必要です。申請までに間に合うよう早めに準備しましょう。
施設工事完成予定日のおおよそ10日くらい前に、上記申請書類一式揃えて管轄の保健所へ提出します。
施設検査日の予約
担当者と工事進捗状況の連絡方法等を確認し、施設検査日を予約します。また、この際に申請手数料も支払います。手数料は、市区町村条例で定められているため保健所ごとに異なりますので、管轄の保健所に問い合わせしてみましょう。
営業所施設の検査
検査当日に保健所の担当者が店舗にこられ、営業施設や設備が施設基準に合致しているか図面と照らし合わせて確認します。また、実際に水を流したりお湯が出るか確認するなど、給水・排水及び汚物処理が適正に行われる構造になっているかなどが調査されます(施設基準についての詳細は後述)。
保健所の検査は、主に調理場とトイレ周りが対象です。そのため、検査の段階では客室については未完成でも問題なく、テーブルや椅子が設置されていなくても構いません。検査当日までに何をどこまで準備しておくべきか優先順位を把握し、必要な設備が揃っている状態で検査当日を迎えられるよう調整しましょう。
許可書の交付
施設基準に適合していると確認されたら、許可がおり許可書が交付されます。交付には1~2週間程度かかりますので、開店日についてはあらかじめ保健所の担当者と打ち合わせておくとよいでしょう。施設基準に適合しない場合は許可されません。不適合とされた事項について改善し、検査日を改めて再検査を受けることになります。
飲食店営業許可では、接待行為、深夜の遊興、深夜に主として酒類を提供する営業はできません。これらを営業する場合は、別途「風俗営業許可申請」「特定遊興飲食店営業許可申請」「深夜における酒類提供飲食店営業開始届」が必要となります。
設備・許可の要件
人的欠格事由
人的欠格事由とは、飲食店営業許可を受けることができない人のことをいいます。欠格要件は食品衛生法第55条第2項に定められています。
2年以内に食品衛生法に違反して何かしらの刑に処された人や、2年以内に飲食店営業許可を取り消された人は、許可を受けることができません。また、法人の場合は、業務を行う役員の中にこれらの欠格事由に該当する者がいる場合は許可を受けることができません。
食品衛生責任者
営業所施設ごとに食品衛生責任者をおく必要があります。食品衛生責任者になれる資格を有するのは次の者です。
食品衛生責任者の資格取得のための養成講習会は、1日の受講で食品衛生管理者の資格を取得することができます。講習を受けると修了証として「食品衛生責任者手帳」が交付されます。
ただ、こちらの講習会は1日の受講で資格をもらえるということで講習を受講する人は多くおられます。そのため、講習会の申し込みから受講まで1、2か月かかってしまい許可申請に間に合わないということも起こりえます。
多くの保健所では、「3か月以内に食品衛生責任者を選任する」旨の誓約書を提出することで、申請を受け付けてもらえますし許可も他の要件を満たしていれば取ることができます。詳細は管轄の保健所に確認してみましょう。
飲食店営業が制限される地域
用途地域(土地の使い方を制限するために定められている)毎に立地可能な施設やその規模等は異なります。飲食店の店舗については、住居系の地域において床の面積や階数など規模に制限があります。
工業専用地域では、飲食店の店舗は建築できません。その他近隣商業地域、商業地域、準工業地域においては特に制限はありませんが、地域ごとにルールが異なる場合もありますので、管轄の保健所に事前に確認しておきましょう。
設備の要件
改正食品衛生法により、設備基準が全国で統一されました。そして、「厚生労働省令で定める全国の統一基準を参酌して条例で公衆衛生の見地から必要な基準を定めなければならない」とされています(改正食品衛生法第54条)。統一の基準を基に地域の特性などを踏まえて都道府県ごとに条例で設備基準が定められています。以下に東京都の設備基準の抜粋を示します。
【施設】
施設は、屋外からの汚染を防止し、衛生的な作業を継続的に行うために必要な構造又は設備、機械器具の配置及び食品などを取り扱う量に応じた十分な広さを有すること。
【区画】
食品等への汚染を考慮し、公衆衛生上の危害の発生を防止するため、作業区分に応じ間仕切り等により必要な区画がされ、工程を踏まえて施設設備が適切に配置され、または空気の流れを管理する設備が設置されていること。
なお、住居その他食品等を取り扱うことを目的としない室または場所が同一の建物にある場合は、これらと区画されていること。
【汚染等防止】
じんあい(ホコリ、チリ)、廃水及び廃棄物により汚染を防止できる構造または設備であること。ねずみ、昆虫等の侵入を防止できる設備を有すること。
【床・内壁・天井】
床面、内壁及び天井は、清掃等を容易にすることができる材質で作られ、清掃等を容易に行うことができる構造であること。
床面及び内壁の清掃等に水が必要な施設にあっては、床面は不浸透性の材質で作られ、排水が良好であること。内壁は、床面から容易に汚染される高さまで、不浸透性の材料で腰張りされていること。
【照明設備】
照明設備は、作業、検査及び清掃等を十分にすることができるよう必要な照度を確保できる機能を備えること。
【換気設備】
食品等を取り扱う作業をする場所の真上は、結露しにくく、結露によるカビの発生を防止し、結露による水滴により食品を汚染しないような換気が適切にできる構造または設備を有すること。
【駆除設備】
必要に応じて、ねずみ、昆虫等の侵入を防ぐ設備及び侵入した際に駆除するための設備を有すること。
【手洗設備】
従事者の手指を洗浄消毒装置を備えた流水式手洗い設備を必要な個数有すること。なお、水栓は、洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造(レバー式、自動水栓等)であること。
【洗浄設備】
食品等を洗浄するため、必要に応じて熱湯、蒸気等を供給できる使用目的に応じた大きさ及び数の洗浄設備を有すること。
【冷蔵冷凍設備】
食品などを衛生的に取り扱うために必要な機能を有する冷蔵または冷凍設備を必要に応じて有すること。冷蔵設備は必須ですが冷凍設備は任意です。冷蔵庫は、その店舗で使用する食材が入る程度の容量が必要です。温度計がついていなければ、購入して冷蔵庫の中に取り付けましょう。
【保管設備】
原材料を種類及び特性に応じた温度で、汚染の防止可能な状態で保管することができる十分な規模の設備を有すること。また、施設で使用する洗浄剤、殺菌剤等の薬剤は、食品等と区別して保管する設備を有すること。
【更衣場所】
更衣場所は、従事者の数に応じた十分な広さがあり、かつ、作業場への出入りが容易な位置に有すること。
【給水設備】
・水道事業等により供給される水またはこれ以外の飲用に適する水を施設の必要な場所に適切な温度で十分な量を供給することができる給水設備を有すること。
・水道事業等により供給される水以外の水を使用する場合にあっては、必要に応じて消毒装置及び浄水装置を備え、水源は外部から汚染されない構造を有すること。
・貯水槽を使用する場合にあっては、食品衛生上支障のない構造であること。
【排水設備】
・十分な排水機能を有し、かつ、水で洗浄をする区画及び廃水・液性の廃棄物等が流れる区画の床面に設置されていること。
・汚水の逆流により食品などを汚染しないよう配管され、かつ、施設外に適切に排出できる機能を有すること。
・配管は、十分な容量を有し、かつ、適切な位置に配置されていること。
【便所】
以下の要件を満たす便所を従業員の数に応じて有すること。
・作業場に汚染の影響を及ぼさない構造であること。
・専用の流水式手洗い設備を有すること。
【廃棄物容器】
廃棄物を入れる容器または廃棄物を保管する設備については、不浸透性及び十分な容量を備えており、清掃がしやすく、汚液及び汚臭が漏れない構造であること。
【清掃用具】
作業場の清掃等をするための専用の用具を必要数備え、その保管場所及び従業員が作業を理解しやすくするために作業内容を掲示するための設備を有すること。
簡易な飲食店営業
簡易な飲食店営業の場合は、一部の基準に緩和規定があります。
営業許可取得後について
許可取得後の届出
下記の場合には、変更後10日以内に保健所への変更届が必要です。
設備やレイアウトの変更など、店舗の増改築を行う場合は保健所に事前に相談が必要となります。また、営業者が変わる場合で、営業の譲渡、相続、法人の合併又は分割の場合は、事業承継が認められる場合がありませすので、事前に保健所に問い合わせしてみましょう。
営業の継続
飲食店営業許可は、取得して終わりではなく更新が必要です。開業後設備や内装、衛生面での変化はない、設備の不具合はないかチェックするため、営業許可書には有効期限が設けられています。営業許可の有効期間は都道府県ごとに異なりますが、概ね5~8年で設定されているようです。有効期間は、飲食店営業許可書の下部に記載されています。期間満了日の約1か月前に下記の書類を提出して更新の手続きを行います。
書類提出後、1週間程度で施設検査があります。新規の許可取得の場合とは違い、図面の提出は原則必要ありませんが、店舗の構造を変更していてその内容を届け出ていなかった場合は、図面の提出を求められることがあります。
また、営業許可証の有効期限が切れた状態で営業してしまうと「無許可営業」となり食品衛生法違反になってしまいます。無許可で営業を行った場合は、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」という罰則が課されます。罰則を受けた際は、その後2年間は営業許可の取得ができなくなってしまうので忘れずに更新の手続きを行うようにしましょう。
おわりに
いかがでしたたでしょうか?今回は、飲食店営業許可の申請手続きの流れから、施設設備や許可取得の要件、許可取得後に必要となる手続きについて見てきました。食品衛生は人の命に直接関わることですから、許可取得のためには施設設備の基準など細かな要件が定められています。最低限必要な設備を備えることはもちろん、きちんと衛生的に営業を継続していけるかという点も飲食店の営業者には求められています。今回の記事が、飲食店営業許可を申請する際の参考になれば幸いです。
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